2023年11月30日木曜日

インフルエンザ緊急事態宣言

 今年後半になってすでにインフルエンザで2名、風邪で1名、札幌に来て雪ではしゃいで入院後に発熱が1名、と手術中止が相次いでいます。

実は札幌中央病院の方も、麻酔科医が1名病気で休職された先生が出てしまい、麻酔科医1名でやり繰りしている状態です。そのため金曜の手術が組めず、手術枠が減っており、今は麻酔科の先生の御好意で月曜に直列で2件組むなどしていただいておりますが、思った件数の手術が組めない状況にあります。手術を組まないといけない方が山ほどいらっしゃるので、一旦延期になると次に組めるのは数か月先になると思ってください。ちまたではマスクをしない方が急増しておりますが、手術前はとにかく自己管理を徹底していただきたいと切にお願いいたします。

ちなみに、我が家は、急に入院と言われてもOKです、という方がいらっしゃればご連絡ください。手術枠が急遽空いた時にはご連絡いたします。

 

2023年11月28日火曜日

今年は多くの先生が手術見学にお越しになりました

 コロナ禍の自粛が一段落し、国内からは、仙台医療センター、九州大、弘前大、琉球大、日本医大、山形大、千葉県こども病院など、多くの先生たちが手術の見学にお越しになりました。海外からも3名の方がお越しになりましたが、これがなかなかバラエティ豊かな先生たちだったので少々ご紹介したいと思います。

1)       ウズベキスタン アバズDr 今まで脳外科医だったのですが、日本で勉強後形成外科医になる、ということでお越しになっていました。イスラム教なので、礼拝の時間があったり、一緒に食事に行っても食べられる種類が限られているなど、少々こちらが困惑する場面がありました。また、ちょうどラマダンと言って断食期間にも当たっていたので、本人は慣れているとおっしゃっていましたが、厳しそうだな~という感じでした。帰国後早速小耳症の手術をして、その写真を送ってくるのですが、なかなか壮絶な耳が作られていて・・・患者が納得していないが何が悪いんだ?どうすればいいんだ?とちょいちょいメール連絡がありますが、そりゃそうですよ。形成外科医の中でもトップクラスの難しい手術ですから、昨日まで脳外科の医者だった人がいきなり小耳症の手術をしても結果が出るはずはないわけで。何が悪いと聞かれてもすべてとしか答えようがなく。まあウズベキスタンではこういうことも許されるのかな~という感じです。中東には●●スタンという国がいくつかあり、治安が悪そうな印象が強いのですが、ウズベキスタンは唯一治安が非常に良い国だそうです。旧ロシアだったため、ロシア語がメインで、彼は独学で英語を勉強して留学に来たそうで、その努力や熱意は素晴らしいと思います。

 

2)       ウクライナ オレクDr ご存じ今戦争の真っ最中のウクライナからお越しになりました。戦争後遺症で耳の受傷も多いので、ということなのですが、彼に見せていただいた写真では、もうそういうレベルの外傷ではないので、小耳症の手術を見ても果たして役立つのかな??という疑問が。足が無くなったり、腕が無くなったり、腹に穴が開いていたり、というレベルの外傷だったので・・・彼はその後台湾でマイクロサージャリーのトレーニング中です。耳介再建学会についても後日ここで書きたいと思っていますが、週末に行なわれた本会にも台湾から駆けつけてくれました。やはり色々な施設に行っているのでコミュニケーション能力は非常に高く、良くジョークも言い、すぐに打ち解けていました。ただ、女性に対してはほぼナンパしている感があり、日本人にはまねできないな~と思います。で学会後はまた台湾に戻って行きました。非常にナイスガイでしたが、いったい彼はいつウクライナに帰るんだろう??ただ、帰ったら帰ったで心配で気になりそうです。

3)  台湾 アンリDr 女性の可愛らしいDrです。何年も前からこちらでの長期の手術見学を希望して連絡をいただいていたのですが、コロナ禍で来れずにおり、時々台湾のお菓子を送ってくれたりしてくれていました。今回は学会で日本に来るのを機会に短期で見学にお越しになりましたが、千歳―台北直行便があり、3時間半で来れるそうです。意外と台湾は近いですね。確かに地図で見ると西表島と台湾って天気が良ければ見える距離ですからね。かえって日本国内の方が乗り継ぎを考えると遠い方が多いかもしれません。直行便のある沖縄はまだしも、奄美大島や屋久島から手術にお越しになる方もいらっしゃるのは相当勇気がいることと思います。彼女も今回耳介再建学会に参加してくれましたが、ちょうど札幌は突然の吹雪になったので、大喜びしてました(北海道の人間にとっては全然嬉しくないですが)。これからも時々お越しになるかと思います。もっとも台湾なら私が行きたいくらいですけどね。

2023年11月8日水曜日

ドラフト会議を見て

 



速報プロ野球ドラフト会議、当HPでも紹介しましたが、小耳症の男の子が見事楽天3位で指名されたTBSの番組、見て感動をもらった方も少なくはないのではないでしょうか。私も見ましたが、朴訥とした印象の中に彼の気持ちや意思が良く伝わってきました。我々もこれまで何度かメディアの取材を受けたり番組の協力をしたりという機会があったのですが、メディアの方達の心の持ち方でこちらの対応も変わってきます。やはり対象者に対する強い興味や愛情がなければ、細かな機微は伝えることができませんし、そういう気持ちでできる限りのことを引き出そうと思ってくる方に対しては、こちらも、こういうことができますよ、こういうところなら見せられますよ、という感じで一緒に制作していく意識が持てて、より良いものができていきます。過去に未来シアターに出た際には、製作の方が非常に高い意識でお越しになったので、短期間ではあったものの、お互いに感覚が共有できました。今でも雨のちハレルヤの曲が流れるだけで涙するお母さんたちがいることを聞くと、いかにあの番組が共感をいただいたか伝わってきます。今回の番組も、制作の方達は恐らく相当勉強し、また家族にも受け入れられる熱意で取材しただろうことが伝わってきたので、そういう点で非常にレベルの高い番組であったと感じました。

 

さて、手術をしない選択・・・当然これも立派な選択肢の一つです。耳介を形成するために本手術で肋軟骨を採取するということは、患者にとって負担が一番かかる点です。術後2か月間(慣らしの期間を考えるとさらに1か月程度)の激しい運動禁止は、ぎりぎりで体を使っているアスリートにとっては大きなブレーキとなることでしょう。またその後も耳や胸をかばう動作が入ってしまったりする可能性もありますし。でも小耳症患者が今後の彼の活躍を応援してくれたらきっと彼にとっても大きな励みになるのではないでしょうか。

 

一方で、耳を作るということは、手術をして耳ができた、マスクや眼鏡がかけられた、というだけの事象ではありません。また手術をしないと、耳が見えることに対しナーバスになる、人の目が気になる・・・という意識は一生続くわけですが、手術をすることで、耳が見えても気にしなくなる、という普通の生活ができるようになる点も大きいと思います。本人にとってのコンプレックスから解放され、自分に自信を持ち、より積極的な形で社会生活、社会貢献をしていけるようになる、という点は、目に見えない部分ではあるものの、この仕事をしてきて非常に強く感じます。手術の後、本人や家族から、手術をしてから凄く変わりましたとよく連絡をいただきますし、それが私にとっての活力にもなっています。彼の場合は、体を極限に使って生きていく仕事のために、手術をしないという選択をしたわけですが、手術が怖いから手術しない、という気持ちを、彼の判断に重ねてすげ変えるのは少々違うと思いますので。


一つあの番組の中で気になったことを記載します。医師が、これ以上年齢が上がると手術が難しくなるという点です。私は常々手術の至適年齢は1120歳とお伝えしています。これはこの範囲内であれば、良いクオリティーの耳をプレゼントできるという意味です。ただし、20歳以上の方でも耳を作れないことはないのです。クオリティーが下がり、軟骨の綺麗なカーブが作りにくくなる、ごつごつ感が強くなる、などの傾向があるものの、作れないわけではないということです。私は最高齢74歳の方の手術もしたことがあります。さすがに苦労しましたが。45歳の小耳症の方の術前術後の写真を載せますが、クオリティーが落ちると言ってもぱっと見では気付かれない程度の結果は出せるかと思います(中には軟骨が異常に硬い方もいますので、もっと結果が落ちる場合もあるかと思いますが)。もし20歳を超えて、もう耳は作れないと思っていた方も諦める必要はありませんよ。