2025年4月19日土曜日

(耳ではないですが)教科書を書きました

  メッセージの期間が空いてしまいましたが、さぼっていたというよりは、本気で忙しくて首が回らない状態が続いていました。何が忙しいか説明するも大変なくらい仕事が多く忙殺され続けています。しかし、この状態から脱出できる時が来るとも思えず、ここに書くのも大事な仕事だと奮起して、少々書いていこうと思います。

              そして、この度単著で初めての教科書を発刊しました!

       タイトルは“局所皮弁塾!

 通常教科書の執筆では、教室員を使ったゴーストライターに頼る方も少なからずいるかと思うのですが、本著は全て自身の手で書き上げました。これまでも依頼で教科書の一部のパートを執筆したりすることは多々ありましたが、教科書に時間をかけるくらいなら他にやらないといけないことが一杯ある!という理由で単著での執筆は考えたことがありませんでした。今回の件は、数年前に、全日本病院出版会の方から、前に私が書いた依頼論文が、カンファレンスでやっているような書き方で非常に面白かったので、教科書として纏めてみませんか?とお声がけをいただいたところから始まりました。

実は、まぶた、鼻、口、耳、などに対する私が開発した顔面組織再建の術式は相当数あって、国内でもトップクラスかと思います。鼻や口の術式は海外でもスタンダードに行われたりしていて、Yotsuyanagy’s flapflap=皮弁のこと)と、なぜか微妙にスペルが変わって定着したりしています。そういう術式や考え方を人に教える機会もいずれ作っていかないとな~と思っていたこともあり、じゃあやってみますか!と割と気軽な気持ちで返事をしたのですが、実際に始めてみたら、この忙しい中でそれを進めるのはなかなかにしんどく、結局2年で終わらせる予定が5年かかってしまったという経緯です。今年の前半はこの校正作業だけでもかなりの時間を要しました。表紙を赤くしたのは、”塾”と名前が付くからには、大学受験の赤本のイメージかなと思ったからです。

内容的には、皆様にとっては何のことやら?という感じかもしれません。ここをご覧になっている方は、小耳症で調べてたどり着いた方が殆どだと思いますので、小耳症=形成外科 は知っていても、形成外科が何をしているのか?についてはあまりピンと来ていない方が意外と多いのではないでしょうか。

形成外科とは、主に体表面の欠損や変形を修復する外科で、形成外科医は、組織移植を始めとする再建外科のエキスパートの集団です。例えば体の他の部位から組織を取ってきて、顕微鏡を使って1mm程度の血管同士を吻合して、移植する技術なんかも持っています。顔面外傷ややけどの治療、乳癌切除後の乳房再建、皮膚がんやあざの治療、顔面神経麻痺、皮膚の潰瘍、リンパ浮腫、口唇裂や多指症などの先天性疾患の治療などなど、形成外科の領域は多岐にわたります。

私は特に顔面の組織欠損の治療、をライフワークとして来ました。直接縫合できない範囲の顔の組織欠損に対し、近隣の余裕のある部分の皮膚や脂肪を、血流を維持したまま移動して、目や鼻が引っ張られたりしないように、そして傷跡が綺麗になるように治す代表的な術式が局所皮弁というものです。小耳症において、小さな耳を良い位置に移動して耳たぶにするのも、局所皮弁の一つです。一つの皮膚の欠損を修復するための局所皮弁の術式は多数あって、そのどれを選択するか、また患者に合わせてどのようにアレンジするか、が術者の腕の見せ所となるわけです。その考え方についての私の経験や、開発した術式を含め、代表症例を提示し、239ページのボリュームとなりました。ちなみに私は陰茎の再建もしますので、よく、子供たちに、ちんちん取ってこっちにくっ付けるぞ!としょうもない脅しをかけていますが、やろうと思えば本当にできるわけです(最近は、子供から下ネタか!とか、セクハラ~!と逆に厳しい突っ込みを受けることもあり・・・なかなか厳しい世の中になってきました)。

価格は12100円とお高めですが、医学書としては、この文量であれば、かなり良心的な金額ではないかと思います(出版社の方が頑張ってくれました)。勿論これを皆さんに買ってくださいと言っているわけではないですが、形成外科がどんなことをしているのか、そのイメージが理解いただけるかと思いますので、もし書店等にあった場合には、ちょっと覗いてみてください。隙間にちょっとした小話も書いてます。よく、先生は耳の手術しかしてないんでしょ?と言われますが、そんなわけはなく、小耳症は形成外科の中のほんの一部の領域なのです。

 ちなみに耳の教科書に関しても、今構想を進めている段階で、2年後位での発刊を目指しております。これは単著ではなく、耳介再建学会に出席されている先生たちにも分担いただき、また耳鼻科の先生などにも聴力関係の知識を書いていただく予定です。勿論形成外科医や耳鼻科医が対象となりますが、小耳症の項に関しては責任をもって私が書く予定で、手術後の創管理や合併症、注意事項、などの項を充実させて、患者の皆様にも役にたつ内容になることを目標としています。完成までにはまだまだ時間がかかりますが(と言うか、まだ始めてもいませんが)、楽しみにしていただければと思います。

2025年1月7日火曜日

明けましておめでとうございます

 昨年の小耳症に関連する手術件数・・・HPの診療実績にも掲載しますが、札幌医大病院と札幌中央病院を合わせると、332件(軟骨移植101件、耳介挙上111件、その他120件)でした。

昨年は個人的にも波乱の1年でありました。春早々に左人差し指の伸筋腱断裂・・・指固定のみして、手術は休みませんでしたが、これはもうこれまでの蓄積した負荷による消耗でしょうね。負荷と手術時間は相関しているような気がします。

他施設で肋軟骨移植というと、通常56時間、耳介挙上でも3時間くらいかかっているのではないかと思います。当科では肋軟骨移植で2.53時間。耳介挙上は1.5時間(種々の難しい条件が加わると延長しますが)位で終わっています。体の負担を考えると手術時間が短いに越したことはないですからね。勿論一切手を抜いたりなんてしていませんよ。時間が短縮するためには種々の要因があるのですが、大きく以下の3つがあげられるかと思います。

1)       医師陣の熟練:通常医師4人で手術を行い、耳と胸で2人ずつに分かれて同時にスタートします。これだけの件数の手術をやってきたわけですから、手術の手順等全員が熟知していて全く無駄がないですし、肋軟骨採取も非常に手早く行ってくれます。他の施設に比較してかなり小さい3cmの皮膚切開で肋軟骨を採取するので、簡単なわけはないのですが、早ければ1時間以内、遅くても1.5時間位で、恐らく他の施設より1時間以上早いと思います。手術場スタッフも熟練したチームとして非常にテンポよく機能しており、殆ど何も言わなくても、必要な材料を的確に出してくれます。これは中央病院の方でも完璧です。

2)       肋軟骨フレームの組み立て:肋軟骨フレームを組み立てるに当たり、恐らく私以外の方は、3本軟骨が取れてから初めて、どこからどう作製するかを考えると思うのですが、私は1本取れた段階からすぐに作製に入ります。これだけでも1時間近い短縮になります。ただ、これはかなりの経験を積まないと対応できない技だと思っており、フレームのイメージや、肋軟骨のイメージがいつからか自然に頭の中に出来上がっていたので、迷わず間違いなくいけます。小耳症の手術を迷うことなく進めることで、相当の時間の短縮になります。

3)       皮膚の操作:皮膚に負荷をかけずに皮膚の血流を維持して皮下の剥離を行うのは、小耳症手術が難しいとされる一つとして挙げられるのですが、これには全ての指を使って傷の展開をして、視野を広げ、同時にハサミやメスが皮膚に当たる感触を指で確認しながら、一気に行なっていくわけですが、これも他の先生にはなかなかまねできない芸当ではないかと思っています。この操作で指にかかる負荷は半端ではないということを、痛めてみて改めて認識した次第です。

これだけの手術と並行して、再生医療の治験を行っているのですが、現在再生医療法が非常に厳しくなっていて、厚生局への対応、特定再生医療委員会への対応はじめ、膨大な書類の作製、報告書等、ありえない負担がかかります。我々の研究も、こういう作業に精通している東大の臨床研究推進センターの方におんぶにだっこでやっとここまで来たという感じです。この法律だと、人に治験を持ち込めるところまで持って行ける施設も限りなく少なくなってしまうでしょうね。世界からどんどん取り残されていくわけです。

 さて、今年もかなり厳しい状況でのスタートになりますが、何とかつつがなく過ごせて行ければと思っております。本年も宜しくお願いいたします。