2023年12月10日日曜日

日本耳科学会報告

 先月の話になりますが、高崎で行われた日本耳科学会という、耳鼻科医の学会のシンポジウムに呼んでいただき、発表してきました。タイトルは“先天性外耳道閉鎖症・小耳症に対する治療戦略について”というもので、勿論私以外は全員耳鼻科医師ですが、司会は国際医療福祉大 岩崎教授、札幌医科大 高野教授が担当されました。

演者とタイトルは

・山形大 伊藤先生:外耳奇形・中耳奇形に対する耳鼻咽喉科・形成外科合同手術

・慶応義塾大 西山先生:小耳症への非侵襲的かつ審美的同時改善の試み

・国際医療福祉大 高橋先生:人工聴覚

・私:小耳症に対する聴覚補助機器の使用を考慮した耳介再建 -形成外科医の立場からー

というものでした。学会前にすでにWeb会議でディスカッションをしたのですが、私としては日ごろ耳鼻科医に対し思っていることを、普段お話しする機会のない方々にぶつけることができる良い機会になったと思っております。やはり直接の意見交換は貴重なものであったと感じました。

例えば西山先生から、形成外科では良い耳介が形成できていないので、義耳と軟骨伝導補聴器を組み合わせた治療を推進している、という趣旨の発表がありました。義耳に補聴器を付けても音が伝わらないため工夫が必要になるということも、言われてみると確かにそうだ、ということも理解しました。しかし、私の立場からは真っ向反対の意見であり、現在耳介再建は、技術のある医師が行うと、普通の耳と見分けがつかない耳が形成できることを認識していただかないといけません。種々の討論により、耳介の形成時に影響のない(皮膚炎等生じた場合にはすぐ中止するなど)使い方を検討する旨の意見をいただき、また私の方でも耳介を形成するまでの幼少期の期間に行なう手段の一つとしてはありだと認識しました。ただ、私は過去に、教室の他の生徒の前で義耳が取れてしまい、その後不登校になってしまった子(その子はその後耳介形成を行い、高校からは普通に学校生活を送り、優秀な大学に進みました)なども知っていますので、やはり使用には慎重であるべきと思っています。

また、伊藤先生は、耳介挙上時に外耳道形成を行うという発表でした。これは独協医大が行ってきた術式ですが、山形大の形成外科が独協から派遣されてできた経緯から試みたとのことです。常日頃私は外耳道形成は効果がほとんどなく合併症も多いのでお勧めしないと言っておりますので、これに関しても真っ向反対の意見なのですが、一方で、もし耳鼻科医が誰も外耳道形成を行わなくなったら、今後発展する可能性も消える、ということになります。そもそも過去には外耳道形成は全国で行われてきたものの、効果が薄いため多くの耳鼻科医はやめてしまったという経緯ですので、お勧めしないという考え方は変わらないのですが、患者を期待させるような説明ではなく、正確に現状を伝えた上で、それでも希望する、という方に対しては、一つの手段として残っていただくのもありかなと。外耳道形成における問題点もはっきりしていますので、問題点を解消する術式を是非発明いただければと思います。

高橋先生の人工中耳に関しては、すでに私と連携を取って行っていただいていますので、適切な皮膚切開を行っていただく分には問題ありません。他施設でも是非耳介形成の影響のないよう皮膚切開を行っていただけるような啓蒙の機会となればと思います。

私からは、形成外科医も人工中耳や軟骨伝導補聴器など、聴覚補助機器を考慮した耳介の形成が今後は求められるという趣旨での発表を行いましたが、一番の目的は、形成外科医は、見てもわからない耳介を形成できるようになっていることを体感していただくのが主たる目的でしたので、耳鼻科医の印象に多少なりと残っていただければと期待しております。

残念ながら学会写真は掲載NGのようなので、文字だけのご報告となりますがご容赦ください。高崎は、始めて行ったのですが、発表だけしてとんぼ返りだったので、殆ど街の様子がわかりません。お土産屋はひたすら達磨押しで、教室員にお土産を買うのに悩んでしまいました・・・

 

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