2022年1月8日土曜日

永田法と四ッ柳法の違いについて

 永田クリニックでの診察後こちらを受診する方は、外来でゆっくり説明している余裕はないかと思いますので、ここに述べておきます。ちょっと長いですが、しっかり読んであらかじめ理解いただけるよう願い致します。

小耳症の治療に関して非常に簡単に言うと、1960年代にアメリカのTanzerが始めた肋軟骨移植による耳介形成が基本で、その後それぞれの医師がそれにアレンジを加えて進化させた方法が永田法であったり四ッ柳法であったりします。従って違いはあくまで枝葉の部分で、根本的には大きな違いはありません。一部に風船を使って皮膚を伸ばすティッシュエキスパンダー法の併用を行なっている施設もありますが、永田先生も私もこの方法に対してはマイナスの点が利点より多いと考えており、行なっていません。

永田法の最大の功績は、世界に先駆けて、それまで数回に及んでいた手術回数を2回に減らしたこと、皮膚の使い方に関する新しい概念、耳珠部分まで一体化した軟骨フレーム(私もこれらは採用させていただいています)の3点かと思います。ただ、私としては、永田法がどうというよりも、永田先生の精緻な技術により、耳介再建のレベルを一気に挙げたことが何よりの功績だと思っています。“見ても作ったとわからない耳”は、当時はあり得ない概念で、永田先生がその概念を変えたと思います。ただこれは一部の医師のみにしか到達できない領域なので、未だ耳に見えない耳も各地で増産されているわけです。

しばしば、永田法と四ッ柳法の違いを聞かれますが、どちらが良い悪いの問題ではなく、それぞれの考え方の違いによるものです。また耳介再建の根本的な問題として、個々の技量が全ての世界ですので、永田法は永田先生がされていたので良い結果が出ますが、他の先生が永田法をやったら同じ結果になるのかというと、そういうものではありませんし、四ッ柳法も然りです。先日名前を挙げさせていただいた先生たちも、それぞれ工夫をされていると思いますが、こちらに手術を見学にいらしたり、耳介再建学会でもディスカッションしてきた方達なので、比較的四ッ柳法に近いのではないかと思います。

以下に簡単に違いを纏めます。私が認識している知識として記載しますが、もし永田先生が見たら、そこは違うとおっしゃるところがあるかもしれませんが、その点はご容赦ください。

 

1)      耳の形について

永田法は、彼のHPを見ると、細工された軟骨フレームの形が皆同じであることがわかると思います。彼はあの形がもっとも綺麗な耳の形であると考えていたためと思います。作られた耳の大きさも皆同じです。四ッ柳法では、それぞれの耳の型取りをするところから始め、対側耳介の大きさや形の特徴ができる限り再現されることを目標としています。

 

2)      肋軟骨移植について

肋軟骨フレームの作り方は細かな点では違いますが、大きな違いはないように思います。ただし、利用する肋軟骨に違いがあります。

永田法は、第6-第9の4本の肋軟骨で耳を作り、余った肋軟骨を細かく刻んで、胸郭に戻します(胸郭の強度を補強するため)。次の耳介挙上では同側の第4,5肋軟骨、または反対側の6,7肋軟骨を新たに採取します。永田先生は耳の形を何より優先していますので、そのためには軟骨はたくさん必要だという考え方だと思います。

四ッ柳法は、第6-9のうち3本(体格が小さい方では4本)で耳を作りますが、余った軟骨片を一つに纏めて胸部の皮下に移植しておき、耳介挙上時にそれを取り出して利用します。肋軟骨移植において、患者にとって最も負担となるのは肋軟骨を採取することであり、少しでも採取量を減らすことが最優先だと思っているからです。勿論、軟骨が不足するようでは本末転倒ですので、不足しないような軟骨フレームの組み方をしています。

 

3)      耳介挙上術について

挙上した耳の後ろに軟骨移植を追加して、耳介のしっかりした挙上を行なうのは同じです。

永田法では、耳の上の頭皮を切開し、その下にある側頭頭頂筋膜を取り出してきて、耳の裏側を被覆する、皮膚は頭皮から薄く皮膚を採取して、それを移植する方法をとっています。この筋膜の採取は、耳介後面を血流のよい組織で覆うと、長期間経っても軟骨が吸収されないため、とおっしゃっていました。ただし、大きく剃髪をする必要がある、頭皮に大きく傷跡が残る(傷跡に沿った禿ができる)、剥がした範囲の頭皮にも点状の禿が多発する、頭皮の知覚の麻痺が生じる(時間が経つとある程度改善しますが、永久的に知覚が戻らない場合もあります)などが問題かと思います。またこの手術でも新たに軟骨を採取するので、術後2,3日は初回手術時と同様に胸の痛みと動きの不自由が出ます。

四ッ柳法では耳介後面は、耳介後方にある別の筋膜で被覆します。これは、耳介周囲を切開した傷を利用して採取しますので、頭皮の切開は基本行ないません。これで十分血流の良い筋膜で被覆できます。また、移植皮膚は下腹部(外側の腰骨のすぐ内側辺りです)を使います。先に触れたように、胸部に余った軟骨を移植しておき、それを取り出して利用するので、この手術では新たに軟骨を採取しません。従って翌日から元気に動けます。

また、移植する皮膚の違いについて、以下に利点欠点を纏めます。私は全層の皮膚の方が移植後の縮みが少ないので、耳介の挙上が維持されやすいという点を重視して、皮膚の余裕があり、採取部位をそのまま縫合できる腹部の皮膚としています(股に近い皮膚は、将来毛が生えたり移植皮膚の黒ずみが強く出るので、腹部の外側です)。永田先生は傷跡が頭髪で隠れやすいという点で頭皮を採用されているのだと思います。それぞれ利点欠点があるので、どちらが良い悪いの問題ではないことがわかるかと思います。

*すでに初回手術を終えられていて、二回目をこちらで希望される方に関しては、新たに軟骨を採取せざるを得ませんので、反対側の胸から軟骨をいただくことになります(自施設で取ったのであれば、どういう手技で取ったかわかっているので同側から取ることもできるのですが、違う施設で取った場合、もし手技が大きく違っている場合、癒着を剥がすときに胸膜損傷等生じる危険もあるので、安全のため、そうさせていただきます)。ただ、当施設では3cm程度の皮膚切開で採取してますので、傷は小さ目です。皮膚は腹部皮膚を使います。












0 件のコメント:

コメントを投稿